京都大学医学研究科人間健康科学系専攻 分子生命基礎医療科学分野 野中研究室

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研究内容

糖鎖模倣ペプチドを用いた悪性腫瘍への薬物送達機構

生体構成因子の一種である糖鎖は多くの病気の発症と進展に関与していますが、構造解析や標識体合成が難しく、生理機能が不明なものが多く残されています。さらに、糖鎖の生合成や化学合成、品質管理は難しく、糖鎖そのものが創薬に活かされた例は少ないのが現状です。そこで解決策の1つとして、当研究室では糖鎖研究にケミカルバイオロジーの視点から取り組むことで問題解決を図っています。

代表例として、糖鎖模倣ペプチドの研究が挙げられます。過去に米国サンフォードバーナム研究所のMichiko N. Fukuda研究室では、糖鎖の構造を模倣したペプチドの研究が行われていました。そのうち、IF7と名付けられたペプチドは、腫瘍血管表面に存在するアネキシンA1分子に結合することで、腫瘍部位に集積し、IF7結合抗がん剤が低投与量でマウス体内の悪性腫瘍を消失させることが明らかにされていました(Hatakeyama et al, PNAS, 108:19587-92, 2011)。IF7は血管の内皮細胞の細胞内を経由して血流側から間質側に移行(トランスサイトーシス)することから、脳腫瘍の血管においてもIF7は通過できる可能性が考えられました。そこで、留学時から産総研時代の研究にて、IF7が脳腫瘍に特異的に到達・集積することを明らかにしました(Nonaka et al, Br J Cancer, 123: 1633–43, 2020)。また、鏡像スクリーニング法を用いることで、悪性腫瘍に標的する、より安定なD-ペプチド(D-アミノ酸からなるペプチド)を取得しました(Nonaka et al, PLos One, 16: e0241157, 2021)。現在、ペプチドが悪性腫瘍に集積する詳細なメカニズムを明らかにすべく、アネキシンA1の生理機能に着目した研究を行っています。

抗体様分子の新規モダリティの創出

近年、様々な種類のバイオ医薬品が臨床で使われていますが、バイオ医薬品を体内へ長期間投与し続けると効果が減弱することがあります。この原因の一つとして、薬剤に対する抗薬物抗体が体内でできることが考えられています。当研究室では、このような抗薬物抗体が体内でできにくいバイオ医薬品の開発を目的とした基礎研究を行っています。創薬研究は一つの研究領域だけでは実現が難しく、分野間の垣根を超えた融合研究が必要です。本プロジェクトでは、薬学研究科や他大学の有機化学を専門とする研究室との共同研究にて実施しています。

アレルギー性疾患や自己免疫疾患の新規診断・治療法の探索

多くの自己免疫疾患では、自己の分子に対する抗体が分泌されます。自己の分子としては、タンパク質の他、核酸、糖鎖、脂質など様々な生体高分子が挙げられます。また、アレルギー性疾患では、IgEに外来の抗原タンパク質などが結合することで引き起こされることが知られています。当研究室では、それらの複雑な分子のうち、自己抗体に結合する構造単位(エピトープ)に着目し、エピトープ配列から抗原タンパク質を効率的に同定する方法や、エピトープを模倣するペプチドの配列情報を横断的に取得する研究を行っています。本研究を通して、疾患の早期診断法や治療法の開発を目指しています。